東京高等裁判所 昭和33年(う)2442号 判決
被告人 鈴木繁
〔抄 録〕
刑事訴訟法第二百五十六条第六項には、「起訴状には、裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞のある書類その他の物を添附し、又はその内容を引用してはならない」とあつて、最高裁判所は、これが規定の適用として「起訴状に記載された事実が、その訴因を明示するため犯罪構成要件にあたる事実若しくはこれと密接不可分の事実であつて被告人の行為が罪名として記載された罰条にあたる所以を明らかにする必要なものであるときは、その記載は刑事訴訟法第二百五十六条第六項に違反しない」旨判例とするところではあるが、当裁判所は、右判例の趣旨は、起訴状記載の事項が、少くとも右判例とする事項に該当するかぎり、裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞なきものとして刑事訴訟法第二百五十六条第六項に違反しないことを明らかにしたもので、右条項の越旨として起訴状記載の事項が、たとえ、右判例とする事項に該当しないものであつても、それが裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞のあるものとするに足りないかぎり敢て公訴提起の手続を無効として公訴を棄却し得るに価しないものと解するにより、本件起訴状における所論記載の事項が、右判例とする事項に該当するものがあるとは言い難いにしても、それかといつて、未だもつて、裁判官に本件被告事件につき予断を生ぜしめる虞ありとするには足りないものがあるから、敢て本件公訴提起の手続を無効として本件公訴を棄却し得べきかぎりではない。
(三宅 河原 下関)